介護の魅力

介護福祉士の必要性

昨今、10年前なら夢物語としか思えなかったものが、どんどん実用化されています。その一つに自動運転の乗用車の開発があり、自動車各会社はしのぎを削っています。特に人工知能(AI)搭載の商品の研究開発が盛んで、会社の経営判断やビックデータの解析に関わる日も近いかもしれません。そして、この結果、AIは人間から職を奪い、社会で認知されてきた既存の仕事が消えていくことが予測できます。

では、10年後の「介護の仕事」はどうでしょうか。
2015(平成27)年6月に厚生労働省は、「2025年度に介護職員が全国で約38万人不足する。」というショッキングな推計を発表しました。
2025(平成37)年といえば団塊の世代が75歳以上になり、高齢化率が約30%に達し要介護者の数も相当な数に上ると予想されています。さらに、この推計を都道府県別の充足率にみると、「関東エリアに介護職員の不足が集中する。」と推計されています。群馬県が73.5%、埼玉県77.4%、栃木県78.1%、茨城県が80.1%になっています。このように「介護の仕事」は、科学技術の発展のなかで職を奪われるどころか「介護職員の不足」という逆の太いベクトルが存在し、解決が急がれる課題となっています。

介護福祉士は1987(昭和62)年に「社会福祉士及び介護福祉士法」の制定により、我が国初の福祉専門職の国家資格として制度化されたものです。そして、同法第2条で介護福祉士は「専門的知識及び技術をもって、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障があるものにつき入浴、排せつ、食事その他の介護を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うことを業とする。」と規定され、主な役割は、利用者に対する「介助行為」と、利用者・その家族に対する相談援助と介護指導です。
法制定20年後の2007(平成19)年には法改正が行われています。その背景には、福祉・介護サービスが飛躍的に増大するなかで社会福祉基礎構造改革が進み、利用者の立場に立った社会福祉制度が構築されたことによるものです。具体的には、サービス利用支援制度や介護保険法・障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)等の創設です。また、認知症の人の介護など従来の身体介護にはとどまらない新しい介護への対応が必要となってきたことです。

これらを背景として、介護福祉士は利用者に対する「入浴、排せつ、食事その他の介護」から「心身の状況に応じた介護」を行うとされたのです。これは、利用者の「自立」を目指した「個別性」に重きを置くもので、同法の改正により介護福祉士養成校のカリキュラムの内容も改正され、利用者の状況に応じた介護を行うため、新たな教育科目(介護過程等)が追加されています。
2011(平成23)年の改正では、利用者の医療的ニーズに対応するため、介護職員等に喀痰吸引等の業務が法制度と位置づけられ、介護福祉士は「心身の状況に応じた介護(喀痰吸引その他その者が日常生活を営むのに必要な行為であって、医師の指示の下に行われるもの)」が追加されています。これは、医療職が独占業務として行ってきた喀痰吸引等を福祉職である介護福祉士に医療移転したことを意味し、新たな科目として「医療的ケア」が新設されています。

このように介護福祉士の業務は、利用者・その家族の多様化・高度化する介護ニーズに応じて確実に変化を遂げています。また、2006(平成18)年に創設された「介護サービス情報公表制度」では、事業所に従事する介護職員に占める介護福祉士の人数を記載することとされ、利用者が事業者を選択する指標となっており、利用者の評価基準ともなってきています。

専門性の高い人材としての、これからの介護福祉士の資質として介護実践力、改革・改善力、マネジメント能力、他職種協働を進める能力等が求められています。 そして「介護の魅力」を「楽しさ」「深さ」「広さ」と集約し、介護のマイナスイメージの払拭のため、介護現場からも情報発信が必要となっています。

日本では、かつて人類が経験したことのない、「高齢化の急な登り坂」を登っている最中で、その一歩一歩が世界中から注目されています。介護福祉士は介護現場のリーダーとして登山者が自分らしく安心・安全にゴールを目指せるようルートを示し、共に登り続けなければなりません。このことに真剣に取り組まなければ、人工知能などに介護現場を奪われてしまうかもしれないのです。

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